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2016.10.22

『大沼ワルツ』

10月22日(土曜日)
 『大沼ワルツ  / 谷村志穂 (小学館)』
 ここ一週間ほどかけて、積読だった懸案を一冊解決。
 函館蔦屋書店でのサイン会が8月13日で、その日に購入したから2か月ほど経ったのか。まあ、優秀な方かな。

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 これも自分の感性へのマッチング度が高く、何度も行間を読み直しながら読み進めました。
 戦後から現代にかけての、ある家族の波乱万丈ながらもほのぼのとした物語。
 「Always3丁目の夕日」ではありませんが、どちらかと言えばそっち系。だから、ネット上の書評にもあるように この雰囲気が嫌いな人は嫌いなんだろうな、と思います。(この雰囲気が嫌いな人はそれを察知して、読まなければいいのに・・・と思うんだけどな。)

 谷村志穂作品としては、前回読んだ「いそぶえ」も良かったけれど、一番好きな谷村作品「海猫」に匹敵するくらい、今回は良かった。そういえば、知らない土地に嫁いで波乱万丈を生きる女性を軸に展開、無愛想でツレナイ夫に嫁いだ美しい義姉に弟が横恋慕といった部分はそこに流れる空気感といい何となく「海猫」に通じるものがあります。 
 
 特に深く残るところは

  ・情景描写
  大沼が身近なところにあり、先週もrunで行ってきたばかり、ということもありますが、良く知った景色が谷村氏の豊かな表現力で頭の中に展開されます。
 春夏秋冬の季節感だったり、早朝・夕暮れ・しじまの温度感だったり、台風・真夏の湿度感だったり、北の大地や山梨での空気感だったり、戦後~高度経済成長期~現代の時代感だったり。あらゆる情景や光の具合なんかが具体的に脳裏に浮かび上がるのです。
 自分の中では谷村志穂はこの辺、川上健一や藤沢周平に次いで優れていると思えるほど。

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 ・愛の形
  登場人物たちが生まれ育った地域に対する愛。その地域が育んだ大自然への愛。人間というものに対する普遍的な愛。家族愛、姉妹兄弟間の愛、そして夫婦間の愛情。どこを切っても様々な形の“力強い”愛に溢れた物語。

 ・確かな時代考証とその盛り込み
  最初の出会いがある終戦時の首都圏、青函連絡船の文化、大沼駅・公園駅の変遷、洞爺丸台風~伊勢湾台風の壮絶な状況、ラジオ・洗濯機・テレビなどの家電が庶民の生活に普及する様、若者文化の象徴だったユースホステルの経営側と利用者側の詳細な描写等々。
  全て極自然に物語の流れに盛り込まれ、大道具・小道具として情景を形作っていきます。
  
 ・市内・近隣地域の状況
  大沼公園近傍はもちろん、長万部~函館市内(市電、棒二森屋食堂のライスカレー、丸井さん、函館公園)

 ・心理描写の形
  登場人物それぞれの行動の裏に隠されたそれぞれの心。行動の意味。それが皆奥深い。良くも悪くも読み手としての自分が裏切られる。しかし、その行動の裏を読む楽しみは尽きず。

  ・その他
 長い時代の流れの中の物語を書けば避けて通られない「老い」と「病」。対峙する家族。それと。。。
 谷村志穂作品の真骨頂は・・・ 頻度はごく少ないし、露骨な表現を使いませんがそれでも十分に艶やかな男女の交わりのシーン。健在です。
 静寂な夜、大自然そのものと交わっているような錯覚。細胞レベルで溶け合い融合してゆくかのような・・・という言葉は使っていなかったかな?しかしその心理描写というか情景描写、感覚的にはすこぶる良く理解できるところです。

 ...といったところでしょうか。

 家から30分のところにこの世界が現存している。大沼の三兄弟に嫁いだ山梨の三姉妹はまだご健在なのです。こんな素敵なことはありません。 お盆の函館蔦屋書店でのサイン会にもこのモデルとなった姉妹は見えられていました。
 
 心がほっこりする物語は、当時大沼湖畔に流れていたという「マリネラ」をBGMにして読み進めるのがより味わい深いかと思います。 

 

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