« 改憲に反対する立場で | トップページ | 最后の頁 »

2013.08.16

『月下上海』

8月16日(金曜日)

==文中より引用==
  新吾は多江子に目を向けながらも、多江子の遙か遠くを見透かすような目になっていた。
「人にはどうにもならない運命がある。周りが何を言っても、本人自身が引き返そうと思っても、一度運命が動き始めたら、もう、どうにもならない・・・・・・。多分それは人間だけじゃなく、組織や国にも、あるんだろうな」

Gekkasyanhai

『月下上海』(山口恵以子著/文藝春秋)

         * * *

 終戦記念日、夏のうだる暑さの向こうに少しだけ秋の香りが混じる。
 この時期は努めてあの愚かな戦争を思い、忘れてはならない記憶をあらためて自分に刻み込む。日本人として。

 今回は意図したわけではないが、偶然見た書評から興味を持ち購入していた本を一冊読み終えた。
 それは戦渦の世、日本から上海へと渡ったある財閥令嬢、才色兼備・容姿端麗な日本人女性の物語。
 彼女の正義感と決断力・行動力には深く共感を覚えるが、身分や正義感だけではどうにもならない、というよりは気高い正義感と「愛」を貫くが故に抗いようのない運命に同期してしまう・・・そんな、人の諸行無常をじわりと思い知らされもする。

 人間は感情の動物。そして「愛」とは最強の兵器にも致命的な弱点にもなり得る不可解なもの。どんな完璧さを備えていようと、自分の「愛」に正直に対峙する生き方(様々な形はあるにせよ)を貫くことは運命に翻弄される可能性を持つことなのか。

 戦時下の上海という複雑な背景設定と多江子の過去のエピソードが、彼女の強さや正義感を際だたせると同時に運命というものの不安定さを強調しながらこの物語を最強に面白いものにしている。

 久々に、ワクワクしながら一気に読み通してしまいたい と思える物語に出逢った。
 50ページほどまでは、序章として設定舞台の平坦な描写部分でありここを耐えて乗り切るとジェットコースターが待っている。

          * * *

 全くの余談だが、前日までに読了した「桐島、部活やめるってよ」(朝井リョウ著/集英社)は物語のほとんどを占める登場人物(章毎に主人公=一人称が変わる)の心理描写が自分にとっては異国語にしか見えないところが多くしかもうるさすぎ(ここがヒットの要因でもあるのだろうが)、自分の老化を大いに認識させてくれた点でマイナスポイント。
 要は今の自分にとってはミルク臭すぎてちっとも面白くなかった。

|

« 改憲に反対する立場で | トップページ | 最后の頁 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 『月下上海』:

« 改憲に反対する立場で | トップページ | 最后の頁 »