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2008.11.03

仮通夜と納棺師と

11月3日(月曜日)~大晦日小樽メモから~
 16時、納棺師到着。
 何と、不謹慎ではあるが、とても美しい、まだ若い女性だ。納棺師と言われる方との初めての出逢いだった。
 以降は終始その女性納棺師の所作に魅了・圧倒されていた。

 全ての動作が、いわば茶道や華道のお手前のように、日本の古き良き伝統、“○○道”の世界。わび・さびを重んじる世界。
 能や歌舞伎の如く、あたかも“演じている”かのような所作。儀礼を尽くし身体中を拭き、髪を清め整えてゆく。
 化粧の濃淡は遺族の希望を聞き、丁寧な薄化粧。

 左半身が不自由になりリハビリもおろそかになってからは、左肘が堅く一定の角度で曲がったままとなっていた父。
 その手が腹の上で組まれ、包帯で固定されている。それを解き、浴衣の脱着をするのは大変な力を必要とすることは明白。しかし、その細身の女性納棺師は、父の身体を参列者の誰にも見せることなく、着ていた浴衣を脱がせ、まっ白な特別の和服へ流れるような動作で着替えさせてしまった。
 
 その納棺師の所作、真剣そのものの眼差し、集中力。圧倒され、魅せられっぱなしだった。

 やがて、脚絆を履かせられ、父は真っ白な旅装束となっていった。
 たった一人で旅立つのだ。父は、これから、まさに。
 そういう気持ちが一気に現実のものとなり、ここでまた強く嗚咽を抑えなければならなかった。

 一連の芸術的な所作を終えると、心底、この納棺師さんへの感謝の気持ちが沸き上がった。
 職業とはいえ、見ず知らずの死人にここまで尽くしてくれる。素直な深い感謝とともに、納棺師という仕事そのもの、そして目の前にいるその人個人の私生活にさえ強く興味を惹かれざるを得なかった。

 やがて参列者からより故人に近い者が選ばれ、力を合わせて父を棺桶へ移す。
 葬儀屋がドライアイスの袋を横に敷き詰め、その後、一人一人、親しかった者達が大人から小さな子供まで、花を父の上に添えてゆく。

 棺桶の蓋を閉じるとその手にはもう触れることができない。ということで故人の妻、子供達、兄弟達が何度もその手に触れる機会を与えられた。

 そして一番最後に、母は父の顔に、そっと自分の頬を合わせた。
 
 まるで映画のワンシーン。母は堪えきれずに泣き崩れ、参列者も痛ましさに涙を抑えられなかった。
 私は泣くわけにはいかなかった。ここで泣けば一気に自分が崩れる。葬儀の間中、ずっと泣くことになるかも知れない。
 我ながら驚異的な頑張りで、ここは堪え通した。無機質を装った。

 この場面は一生涯忘れることはないだろう。

 こうして父は棺桶に入った。安らかな寝顔だった。

          * * *

 大事な仕事の一つに、届いた弔電の整理があった。
 13日の通夜で司会が読み上げるものの抽出と順番決めである。
 相手の立場、故人との関係の深さ、そして弔電内容の“良さ”等に応じて全文読むもの何通、名前だけ読むもの何通、「以下○通」と読み上げさせてもらうもの・・・。式を時間内に納めるために思う以上に重要な作業だ。

 整理している間にも弔電は届く。その内容が心に滲みる良いものだったりすると、いきなり「全文読み上げカテゴリ」に飛び込む。
 すると全文読みとしてエントリしていたものから、「名前だけ読みカテゴリ」に降格し、その余波で名前さえ読まれなくなる作品が出てくる。
 ワープロなどでの整理ならまだいいが、アナログでの名簿に書き込んで行っているため、とても面倒な作業となる。

          * * *

去年の11月3日 大変な重責を背負う 

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