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2005.06.17

夜のピクニック(恩田陸)

 ふらっと入った書店で、広告「第2回本屋大賞受賞作品」に誘われて購入。

 「歩行祭」、80kmをひたすら歩くという高校の全校行事。3年生のある男女のグループに焦点をあて、高校最後の大イベントという特別な状況にさしかかった若者達の心模様をこの80km歩行の進行に合わせて描き出す。
 ただそれだけなのに、読後にゆったりした穏やかな安心感が漂い、満足してしまう。
 なぜか。
 だれしもが体験する修学旅行の夜のワクワク感と同じ心の揺らぎ。80キロ歩行という極限状態にある身体そして精神。これらをうまくアレンジしながら、通常時では言えないであろう胸の内を彼らに言わせてしまうことで、話を徐々に展開させる技法の巧さか。

 80km歩行に関する段階的な疲れの描写はまさにフルマラソンを体験した者であれば多くの人が納得のいくところであろう。

 ところで。
 高校生の考え方や会話はこれくらい「きちんと」しているものだろうか。
 この物語に登場する高校生が現代の大部分の普通の高校生だとすると、自分が今の高校生世代に持つ偏見が大きすぎるかも知れないと反省させられる。しかし本当にそうなのかはわからないまま。
 一方、作者恩田陸氏は我々と同世代。仮に我々世代の高校生を描写したものだとすればどうか。これが当時の「標準仕様」とすると、あの時代の自分の精神の未熟さに思い至りこれまた愕然とする。

    *
 若者のセリフや、彼らの想いを表現しているその文章で、ハッとさせられる表現が随所に現れる。
■そこに林檎があるとわざわざ口にしなくても、林檎の影や匂いについてちらっと言及さえしていれば林檎の存在についての充分な共感や充足感を得られるのだ。むしろ林檎があることを口にするなんてわざとらしいし嫌らしい。
■「青春の揺らぎというか、煌めきというか、若さの影、とでもいいましょうか・・・」
■「(君の)他人に対する優しさが、大人の優しさなんだよねえ。引き算の優しさ、というか」
■好きという感情には、答えがない。何が解決策なのか誰も教えてくれないし、自分でもなかなか見つけられない。自分の中で後生大事に抱えてうろうろするしかないのだ。


 前後の文脈がないと、あまりピンとこないな。まだまだ、色々出てくるが、これらが高校生の考えだとしたら見上げたもんである。恩田氏の今現在の考えを高校生にしゃべらせているというのならまだ話はわかるが。
 この作品の高校生の心の設定とその背景について、是非作者本人に聞いてみたいところだ。
また、
 この作品を「遙か上空」から見ていられる世代としてこれを読んだわけだが、「直上」からだったりまさに「中」から見ざるを得ない平均的な現役世代の感想も聞いてみたい。
 あるいは「下」から見なければならない世代。うちの子供達はまだ「遙か下」なので読みこなすレベルにもないが、「直下」くらいの位置からこの作品を読める世代にとってはある種の青春のヒントが得られるかもしれない。  良きにつけ、悪しきにつけだが。
 特別な状況下に置かれた先人達の行動や精神状態をそのまま「これか!」と事前に信じ込むことはある意味危険でもある。やもすると刹那的な思考に陥りがちになるに違いないから。
 結局、「こつこつやった者」がその平凡だった生活の中に輝きの断片を幾つか見出し、最後に色々思うところに「青春」の一端があるのではないかとも思うのである。

 いずれにせよ、「ダビンチ・コード」よりは圧倒的に読み応えがあった。というよりは、読後の充実感があったと言う方が正解か。まあ、あの作品と比べるほうがどうかしているが、直前に読んだのがたまたまそれだったから。「ダビンチ・コード」はエンタテイメントとしては秀逸かも知れないが、それをやっちゃおしまいよ、的な設定がどんどん現れ、これをやっていいなら俺でも書ける。と思わせるところに稚拙さが感じられたものだ。もっとも、現実には書けるわけもないのだが・・。

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コメント

ぼくも先月読んだばかりなんですよ。遅ればせながらトラックバックさせていただきました。

投稿: きまぐれ はや | 2005.06.21 23:10

うわぁ、はやさんまでいらして頂き、私は三国一の果報者でございます!
トラックバックもありがとうございます。
あぁ、読まれたのですね、夜のピクニック。しかも実際に同様な「強行遠足」も経験されてるとは、さぞかし臨場感があって良かったでしょうね。やはり、融君や忍君のように「大人な」こと考えたり会話したりしてましたか?私はとでもじゃありませんが、全然ガキだったような気がしてます。

投稿: NAOMI | 2005.06.21 23:46

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「博士の愛した数式」に続いて、こちらは第2回本屋大賞に選ばれた本である。 この本 [続きを読む]

受信: 2005.06.21 23:11

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